研究という行為

難しいことではない

「研究」という言葉を耳にすると、何とも難しいことのような印象を持つ人が少なくないようだ。確かに、研究発表とか研究論文とかは、それなりに高度なもの、難しいものではある。
しかし、日常の些細な出来事であっても、やりようによっては研究たり得る。
世界で誰も知らないことを見つけることも研究であるが、誰でも知っていることを体系化してまとめ上げる作業も研究である。

身近なネタ探し

たとえば、近所のスーパーAでは、閉店の1時間前に惣菜が3割引になるが、閉店20分前になると半額になる。一方別のスーパーBでは、閉店前になっても値引きはしない。仮にこういうことがあったとしよう。(実際、いくらでもある)
店員や近所の主婦なら、たぶん常識として知っていることで、こんなものが研究であると思っている人は少ないだろう。
しかし、これも十分な研究(のネタ)になり得るし、場合によっては、これを出発点としてレポートや論文を書くこともできる。

ネタから問いを立てる

上記の事例では、「なぜスーパーAがそういう値引きのシステムを採用しているのか?」という問いを立てることができる。一旦3割引にして、再度半額にするなら、おそらくそのシールを貼る人がいて、二度手間になっているはずだ。細かな話では、シールもタダではないから、シールを印刷する費用もかかる。3割引と半額と、2種類のシールを用意しておかなければならない。
また、この値引きの仕組みは、毎日同じなのか? それとも、曜日によって違う傾向にあるのか? 天気や気温との関係はあるのか?(実際にはけっこう関係がある)などなど、これらを整理してまとめれば、立派なレポートが完成する。そこへ経済学の知見などが入れば、論文の出発点となる。
スーパーBが値引きをしないのはなぜか?という点も、いろいろと考える余地がある。値引きするまでもなく売り切れているのかも知れない。あるいは、某コンビニチェーン店のように、現場の裁量で値引きができないのかも知れない。
値引きという行為に対して規制がかかったとしたらどうなるだろうか?という問いを立てることも、研究のひとつのスタートとなる。現に、価格が決められているものは、診療報酬や介護報酬など、世の中にごまんとある。決められているものと、自由に決めることができるものとの違いは何か?という問いもまた、とても貴重で重要なテーマである。
スーパーの惣菜の値引きの話だけでも、経済、法律、政策等の分野から、関心を向けて研究することは可能である。

ネタと学問の接続

私は「現代社会福祉論入門」なる科目を担当しているが、こうしたネタと社会の問題、福祉の問題が少しでもリンクしていたら、たぶん及第点を与えるだろう。
「自分は○○学部だから福祉と関係無い」的な相談があるのだが、まったく関係無いことなど無い。自分自身の専門分野、詳しい分野を、別のテーマとどうリンクさせられるかが、その腕の見せ所と言っても良いだろう。
スーパーの値引きが、その地域住民の暮らしや年齢層と関係しているのかどうか? これを調べるだけで、もう十分に現代社会福祉の研究として価値がある。
日常の些細な出来事、自分自身ではたいした価値がないと思っている情報の集積や分析が、とても大切な発見につながることもある。卒論等で研究ネタに困ったときは、身近なところから考えてみてはどうだろうか?

余談

雑談コーナーに余談とは何事か?と思われるかも知れないが、この文章を書いたのは日曜の夕方である。ちょうど晩ご飯をどうしようか?と思い、米を洗って、どのタイミングで買い物に行くかを思案していた。
この原稿のネタにスーパーの惣菜を選んだのは、書いている時点での最大の関心事であったからに過ぎないことを、ここで告白しておこう。
そして今夜は、見事?に、唐揚げとか刺身とかコロッケとか、ほぼすべてのおかずを半額でゲットできた。ポテトサラダだけは定価だったが、なぜだろうか?(その理由は、これを読んでくれている人が考えてみてください)
家屋連れが多い住宅街のスーパーでは、日曜は比較的早めに惣菜の値引きが行われる傾向にある。それはなぜなのか?(せっかくなので、この理由も、これを読んでくれている人が考えてみてください)
最後に、なぜ最後の方は、「考えてみてください」で終わっているのか?も、考えてみてください。(分からない人は、このページを最初から最後まで読み直してください)
では、これから晩ご飯。