消費税増税がなくなった!?

友人から、「10月からの消費税増税がなくなったよ」というメールが届いた。
それは良かった。安倍さん、新元号の発表に併せて、よく決断してくれた!と感服した。
消費税増税が無くなることはすばらしい政治判断であり、これで日本の景気悪化は防げると期待して、そのような内容のメールを返した。
ところが…

裏切られた期待

後ほどその友人から、「今日は何の日でしょう?」というメールが返ってきた。
日付を確認した。4月1日、エイプリルフールだった。
友人からのメールはウソだったのだ。
彼がどういう意図で私にこんなメールを送ってきたのか分からない。私が普段から何を考え、何を主張しているか、どこまで知っているかも分からない。
ただ、このメールを読んで私が喜ぶだろうという期待はあったのではないだろうか?
10月からの消費税増税は、今のところ延期とも中止とも言われていない。そのため、今後半年間の間に何らかの政治判断が為されなければ、予定通り実施されることになるのだろう。

これは“エイプリルフール”ではなくなるゾ!

しかし、私は、消費税増税は「無い」と思っている。つまり、先に紹介したウソのメールは現実となり、“エイプリルフール”ではなくなるのだ。必ず、そうならなければならない。
そこで、私が消費税増税が無いと思う根拠、反対している理由を記すこととする。
これは政治的な主義主張ではなく、普段から講義で話していることだ。だから、私の講義を受けたことのある学生なら、一度は聴いたことがあるはずだ。
以下は、普段の講義で話しているネタとほぼ同じことを書く。分かりやすくするために、かなり極端な事例を用いている。

どうすれば景気は良くなるのか?

景気循環

まず、景気を良くするためには何をすれば良いか?という基本を理解しておく必要がある。
例えば、この教室にちょうど100人の学生がいるとしよう(そして実際、私の講義はそれぐらいか、それ以上受講している)。その100人が、1枚ずつ余分にTシャツを買ったとしよう。そうすると、その服屋は100枚のTシャツが余分に売れたことになる。100枚売れたのだから、その分仕入れることになるだろう。
この店舗と同じことが100店舗で起きたとすると、100枚×100店舗で1万枚余分にTシャツが売れたことになる。
そうなると、次に何が起こるだろうか?
Tシャツを製造する工場に、1万枚の発注が余分に発生する。受注した工場はそれだけ生産量が上がる。いや、上げなければならない。売り上げも上がる。そして、作るための人員も必要となるから、そこに新たな雇用も生まれる。
仕事が無くて困っていた人たちが、働いて稼ぐチャンスが巡ってきたことで、毎月の給料を貯金し、前から欲しかった車を買うことになったとしよう。(Tシャツと車では話が飛びすぎる感はあるが、分かりやすくするためにこの例を使っている)
車を買える余裕が無かった人が車を買えるようになったことで、車屋が儲かるのは誰でも分かるだろう。しかし、儲かるのは車屋だけではない。自動車メーカーも生産量が上がるし、自動車部品を製造している町工場にも仕事が回ってくる。そこに新たな雇用が生まれ、自動車工場で働いていた人が、せっかく稼げたのだからと、Tシャツを1枚余分に買ってくれるかも知れない。そうすると、また服屋が儲かる。以下、循環する。
こうしたお金の流れを景気循環(この場合は好循環)と呼ぶ。

節約をやめて無駄遣いしよう!

Tシャツと車を例に出したが、もちろん他のものでも同じことが言える。分かりやすく言えば、人々がちょっと贅沢をしたり、余分な買い物=無駄遣いをしてくれるたりすることで、景気は良くなる。この話をしたとき、ある学生のレポートに「私は余計なものをたくさん買ってしまいます。景気に貢献してるってことですね(笑)」と書いてあった。何を買っているのかまでは書いていなかったが、バイトで稼いだお金でTシャツを余分を買っているのかも知れない。
景気循環について説明したところで、今度は逆のパターンを考えてみよう。また、先ほどの例を使う。
節約を目的に100人がTシャツを買うのを我慢したとしよう。そうすると、服屋は100枚売れ残ることになる。その現象が100店舗で起きれば、1万枚の売れ残りとなり、生産量を縮小せざるを得ない。そうすると、そこで働く人たちの人数を減らさざるを得なくなる。収益が減ったために人件費を支払うのが難しくなるからだ。リストラが起きてしまう原因がここにある。失業する人も出てしまうし、雇用も不安定になる。
そうなると、前から欲しいと思っていた車の購入が難しくなり、諦めざるを得なくなるだろう。後はもうお分かりだろうが、車屋は車が売れないのだから収益が減り、車が売れない以上自動車メーカーも生産を減らさざるを得ず、自動車部品を製造している町工場にも仕事が回らなくなる。中小零細企業の場合、自動車メーカーからの発注が減ってしまうと、経営が立ちゆかなくなる危険性もある。Tシャツを余分に1枚買おうなどとのんきなことは言っていられない。
こうして景気の悪循環が起きてしまう。
この事例の中で、Tシャツを買うという行為を消費という。消費税が増税されることで、買う量を減らそうと考える人は出てこないだろうか? 仮に予定通り消費税が8%から10%に増税されたとして、その増税分の2%相当、あるいはそれ以上の消費が減少すれば、税収も増えないし、消費自体が減少するわけだから、先に述べた景気の悪循環が起きてしまうことになる。これで誰が得をするというのか?
こんなことは、経済学や経営学を入門レベルでも少し学んでいれば、誰でも分かる常識のはずだ。専門の講義を受けていなくとも、独学で入門書を読めば分かる。消費税増税を主張している人たちは、おそらくそれなりの社会的地位の人で、それなりの学識もあると思っていたのだが、これすら分からん阿呆なのか?
人が節約したり貯金したりして財布の紐を締めれば、景気は悪化するだけだ。人が余分なものを買ってくれるから、景気は良くなる。百均がなぜ成り立つかというと、余分なものを買ってくれる客が多いからだ。皆が必要最低限のものしか買わなくなれば、百均は潰れてしまうだろう。
つまり、政策レベルでは、人が節約するように誘導するのではなく、その真逆で、人が無駄遣いをしようという心理状態になるように誘導することが求められる。
金利を下げるというのも、これと同じ理屈だ。金利が高く設定されれば、人は銀行にお金を預けようとするだろう。金利を下げれば、銀行に預けるよりも、手元に置いておき、あるいは、安い金利を利用して金を借り、車や家を買おうという行動に出る可能性がある。その結果、家や車が売れるわけだから、景気は良くなる、というわけだ。
「余計なもの」とか「無駄遣い」とかの表現を用いてきたが、生きていくのに最低限必要なものしか人が買わなくなれば、景気はどんどん悪くなっていくということをここでは理解して欲しい。

消費税を増税しても社会保障費には回らないカラクリ

もうひとつ、福祉関係を教えている身として指摘しておきたいことがある。消費税増税の議論の中で、社会保障費に充てるといったことが言われているが、これはおかしい。社会福祉、特に社会保障制度についての知見があれば、こんなトリックはすぐに見抜ける。福祉に詳しくなくても、会社経営者や個人事業主であれば、このトリックは分かっているはずだ(もし気付いていないなら、この先をしっかり理解して欲しい)。ただ、サラリーマンは知らない人も少なくないので、騙されている人も多いだろう。
一言で言えば、「税金と社会保険料は別物」だということだ。年金も医療も、社会保険制度の中で運用されている。

ここで少し社会保険のお勉強

せっかくだから書いておく。(少し講義モードになるので、読み飛ばしてもらってもかまわない)
日本には5つの社会保険がある。年金保険、医療保険、雇用保険、労災保険、介護保険の5つで、これ以外の「保険」と名の付くものは、社会保険ではない(民間の保険会社が商品として販売している火災保険や自動車保険など)。
年金保険は、老齢や障害等によって所得を得ることができなくなったときのために保険料を支払っているもので、会社員や公務員が入る厚生年金と、それ以外の人が入る国民年金とに大きく別れている(公務員は共済年金というのに入っていたが、現在は厚生年金に統合されている)。
医療保険は、病気やケガで医療機関にかかる必要がある時のために保険料を支払っているもので(もし医療保険が無ければ、病気やケガで病院に行ったときに高額な医療費を負担しなければならない)、自分の保険証を見れば、自分がどの保険に加入しているか分かるから確認してもらうと勉強になるのだが、会社員とその扶養家族が加入する健康保険(○○株式会社健康保険組合、等と記されていて、その○○は自分か親の会社名(グループ会社の場合もある)になっているはずだ)、公務員とその扶養家族が加入する共済組合、それ以外の人たち(自営業、無職、等)が加入する国民健康保険に分かれる。国民健康保険は住んでいる自治体のものに入ることになる。細かな話をすれば、まだまだあるのだが、主なものだけ書いておいた。
雇用保険と労災保険はここでは略す。
介護保険は、高齢になって介護が必要になった場合に給付を受けることができる仕組みで、その時のために介護保険料を支払っている。
いずれも、「保険料を支払っている」のだ。税金ではない。税金とは別に「保険料を支払っている」のだ!

仕組まれた罠

自営業者の場合は、税金と保険料は別々に請求されている(そりゃあ、納める先が違うのだから、別々に請求が来るのは当たり前のこと)から、税金と保険料とが別物であることを分かっているはずだ。ただ、サラリーマン(会社員・公務員)の場合、会社が給料から天引きして税金も保険料も支払ってくれているので(給料から税金や保険料を引いた額が本人に支払われ、これを一般的に「手取り」と呼ばれる)、詳しいことは知らぬ間に会社が支払っているものだから、税金なのか保険料なのかの区別も分かっていない人が多い。そして、仮にその違いが分かっていなかったとしても、会社が税金も保険料も支払ってくれている以上、脱税や保険料未納で怒られることもない。だから、余計に気付かない。
さて、社会保険制度の話はこれぐらいにしておこう。(これを説明するだけで90分の講義を3回ぐらい使っている。いったい何を話しているのか?自分でもこれを書きながら不思議に思えてきた…)
消費税を上げることと社会保障費に充てることとは別の話だという点は分かっていただけただろう。社会保障費が足りないなら、保険料の値上げはあったとしても、税金の値上げはつじつまが合わない。それを理由にしていることは、おかしいのだ。

拝啓、安倍晋三様。

ここで、私が総理なら、どういう対応をするか、書いておくことにする。
おそらく安倍総理もその周辺の人たちも、あるいはそれなりの学識のある偉い先生方も、私が書いたものなど読んでいないだろうから、好き勝手に書く。
小渕恵三氏が総理だった頃、小渕総理自らいきなり電話をかけてくるという「ブッチホン」というのが流行ったが、それ以後の総理は、安倍総理を含め、そういうことはしていない。

タイミングと戦略

さて、ここから本題。
10月の消費税増税は見合わせる。そしてこれは、「見合わせ」ではなく、事実上の「中止」である(「中止」と言うのが難しければ、「延期」「見送り」を繰り返していても良い)。
問題は、それをどのタイミングで公表するか?だ。
私が察するに、安倍総理は既に10月の消費税増税は「しない」と心に決めていると思う。ただ、その公表をためらっている。なぜなら、消費税増税を信じた“駆け込み需要”に期待があるからだ。これから約半年の間、普段以上にものが売れるはずだ。人々は消費税が上がる前に安く買いたいからだ。
そうなると、しばらく引っ張った方が得策だろう。

サクセスストーリー

そして、これはもう政治的な戦略の次元だが、今年は夏に参議院選挙が控えている。一応書いておくが、参議院は任期6年で、3年ごとに半数改選。解散はないから、参議院に当選したら6年間身分は保障される。
これに対して、任期4年だがいつ身分を失うか分からないのが衆議院だ。「衆議院を解散する」と決まれば、直ちに衆議院議員は全員「国会議員」という身分を失い、失業する。なお、衆議院の解散は内閣総理大臣が行うと誤解している人が多いようだが、内閣の助言に基づいて天皇が行う国事行為である(日本国憲法第7条)。そのため、「衆議院を解散する」と議長が読み上げて、すぐに「万歳!」とする国会議員がいるようだが、最後の「御名御璽」まで読み上げてから「万歳!」を叫ぶべきである。これを以前、伊吹文明議長(当時)がたしなめたのが印象に残っている。(先に万歳した人、国会議員なのだから、憲法と天皇の国事行為ぐらい学んでおきましょうね)。
この衆議院の解散は、いきなり天皇が命令することはないので、実際には内閣が提案することになる。つまり、発案者は安倍総理ということになる。その権限が、総理にはある。(仮に内閣の中で総理の方針に反対する者がいたら、内閣改造でメンバーチェンジすれば良いだけだ)
衆議院が解散された場合、解散から40日以内に選挙を実施しなければならないことになっている(日本国憲法第54条)。
そうすると、参議院選挙が行われる日から逆算して40日以内に衆議院を解散し、衆参同日選挙に持ち込むことが可能である。
そこで、その直前に消費税増税を「しない」と公表し、衆議院を解散し、衆参同日選挙に持ち込めば、安倍政権にとって有利な選挙結果をもたらすことは間違いないだろう。

「消費税増税」が消える日

したがって、消費税増税見合わせの公表は6月、速やかに衆議院解散、衆参同日選挙、というシナリオになると、私は予想する。かなり確信を持っている。